メディア掲載

 

「ポストコロナ」時代の静脈産業 不確実性の中で問われる見識と覚悟  

環境新聞 令和2年7月15日特集号

1.「ポストコロナ」の時代を定義する

 新型コロナウィルス感染症(COVID-19)は、本年2月からわが国を含め世界中にその感染が拡大しており、外出禁止や自粛等に伴って国民のライフスタイル全般や価値観にまで大きな変化をもたらすに至っている。また、感染症拡大に伴う一時的な経済活動停滞のみならず、マスク着用の常態化にも見られる通り、「withコロナ」と呼ばれる生活様式や事業活動の変化が社会のあらゆる局面で定着しつつある。では、昨今語られ始めた「ポストコロナ」の時代とは何なのか?

 本稿では、感染症への不安が蔓延しており、効果的な対策が不明な中、社会経済活動が極度に抑制されている状況の中での対応策を「withコロナ」と呼ぶ。また、いずれは実現する治療薬やワクチンの開発等によりCOVID-19自体のリスクが収束した後も、パンデミックの記憶や教訓を前提に新たな社会経済システムに移行していく世界を「ポストコロナ」の時代と定義する。

2.社会変革の契機

 「withコロナ」時代のキーワードとしては、「外出自粛/出張禁止」「衛生管理/ソーシャルディスタンス」「休業/雇い止め/失業」「巣ごもり/消費低迷」等が挙げられる。いずれも緊急事態に対応した受け身の対応策であり、暫定的な避難的措置のイメージがある。

 むしろ、この事態を前向きな社会変革の契機として捉えることが、「ポストコロナ」時代には求められることになる。具体的には、「リモートワーク」の進化、「自動化/非接触化」の進展、「働き方改革」の加速、「新しい商品・サービス」の開発といったコロナ禍以前に存在していた課題への取り組みを本格的に進める必要がある。緊急事態宣言の発出に伴う実質的な経済活動の停止は、国民全体に莫大なダメージを与えた。この痛みを無駄にすることなく、先延ばしにしてきた課題解決を本格的に進めるべき時が来ている。

3.「ポストコロナ」時代の不確実性

 感染症対策に限らず、「ポストコロナ」は不確実性の時代となる。「危機管理の要諦は最悪の事態に備えること」との格言もあるが、全てのリスクを無闇に回避するなら、社会経済活動を停止する以外に選択肢はない。無論、将来的なテクノロジーへの期待はあるが、例えば天気予報一つとっても、衛星データの解析精度やスーパーコンピューターの演算能力の急速な発展も、肝心な日々の天気予報の予測確率を高めてはいない。

 直近では、感染症蔓延に伴う病死と経済的・精神的な苦境に伴う自死の回避の両立が「withコロナ」の時代を生きる我々に課された命題である。ただし、そのための合理的判断に必要なデータや分析に必要な理論の蓄積は存在しない。当面は暗闇の中を手探りで進むような感覚で対策を積み重ねていくしかない。

 とはいえ、目先の感染症を乗り越えた後の「ポストコロナ」時代を見据えた課題の輪郭は見えつつある。既存テクノロジーの範囲でも実現可能な、就業時の移動の縮減や各種の社会活動における物理的な接触の回避がその代表例である。今すぐできることは、全て迅速に進めるべきであろう。

4.ツールとしての「DX」活用の必然性

 こうした課題解決に共通するのが、IoT等先端技術活用によるデジタルイノベーション(以下、「DX」。)導入の必然性である。ZOOMやTEAMS等のテレビ会議システムは、プライベートかビジネスかを問わず、概ね3か月間で世界中のユーザーを獲得している。また、出勤停止・在宅作業が会社から要求されても、総務関連の職員はハンコを捺すためだけに出社するといった事態を避けるため、DocuSign等の電子契約システムを導入する動きも急速に拡がりつつある。

 慣習に裏付けられた各種の社会常識が、コロナ禍でむしろ「言い訳」とみなされたことをきっかけに、「やれば出来る」との手応えを多くの人々が受け止めている。その結果、移動時間の短縮や印紙代削減等の前向きな実績が生まれつつあるのが現状ではないか。DX導入の恩恵は一度受入れられれば、確実に不可逆な流れとして定着する。もはや業種や業界を問わず、私生活やビジネスの常識がコロナ禍以前に戻ることはあり得ない。

5.静脈産業への影響

 コロナ禍は、一般廃棄物・産業廃棄物を問わず静脈産業にも多大な悪影響を及ぼしてきた。廃棄物処理・リサイクルの担い手はいわゆるエッセンシャルワーカーであり、突然の社会動静の変化に対応することが困難だからである。わかり易い事例として、ごみ袋がパッカー車投入時に破損することにより、収集作業員がウィルスに被爆して、神戸市の清掃事務所が閉鎖に追い込まれた事例が挙げられる。

 各種静脈産業が、病院や福祉施設、小売店、運送業等と同様に社会インフラとしての認知を受けたことは誇るべきだが、その業務実施体制の硬直性並びに業務従事者のリスクには十分以上の注意を払うことが不可欠となる。今後就職を目指す若者や転職を考える人々が、新型ウィルス等への感染リスクが高い職場を選ぶとは考えにくい。これまでの人手不足が、今後更に加速する近未来は容易に想定出来る。

 だからこそ、静脈産業は「DX」等の新技術に裏付けられた新たな仕組みの導入を、他業種以上に真剣に検討すべきなのである。

6.欧州の先進事例に学ぶ

 例えば収集運搬業務に限定した具体例として、大規模コンテナ収集の導入が考えられる。欧州諸国では、コロナ禍以前から衛生的なリスク管理の観点で収集作業員がごみやごみ袋等に直接接触することを禁じてきた。公共スペースや車道に設置された大規模コンテナに近隣住民が廃棄物を持ち込み、重機を伴う車両で「非接触」を前提に輸送する仕組みが一般化している。こうした収集処理体制を前提に、一部の都市では、常設されたコンテナ内部にセンサーが設置され、廃棄物の累積状況に応じて収集対象コンテナとその最適な収集運搬ルートを設定するIoTシステム導入も進められている。

 我が国では、ごみ袋での排出及びパッカー車での収集という組み合わせが全国的に定着しており、収集運搬作業員によるごみ袋への接触を回避することが実質的に不可能である。住民にとっての利便性や収集作業の効率性という観点からは、既存の仕組みが極めて有効だが、「ポストコロナ」時代には欧州の先進事例等を参考にした収集運搬システム導入等も前向きに検討していくことが重要になるのではないか。

7.不確実性の中で求められる見識と覚悟

 収集運搬の場合、既存の仕組みのリスクが顕在化しており、欧州事例を参考にすることの便益がわかり易い上、テクノロジーの観点からもその実現を阻む要素が存在しない。ただし、静脈産業におけるその他の課題、例えば「排出量/排出先/組成等の急変」への対応としては、柔軟な組成把握を実現するセンサリングシステムと家庭系・事業系を跨ぐ制度的な柔軟性が求められる。また、「労働集約型中間処理工程の限界」に対応するためには、ロボット導入による機械化・自動化範囲の見極めを前提とした、工場レイアウトの変更等も必要となるであろう。更に「再資源化物の流通停滞」への対応策としては、国内外に跨がる既存サプライチェーンの見直しに加え、新たなリサイクル技術導入を伴う新市場の開拓も急がなければならない。

 行政や経営を担う指導者は、不確実性の中でも、こうした諸課題を解決に挑むことで、次世代の静脈産業を切り開かなければならない。そのために最も重要となるのが、見識と覚悟である。

 例えば、AIブームの最中では「ドライバーは自動運転の急速な普及によって淘汰され、小売店の販売店員は店舗の無人化に伴って失業する」といった極端な議論が盛んに行なわれていたが、本当だろうか。むしろ、エッセンシャルワーカーであるドライバーや販売店員の重要性は高まっており、雇用安定確保のための方策が指導者にとって喫緊の課題となっている。

 「Withコロナ」の時代には、一時的に失業者が増加するものの、「ポストコロナ」の時代に心配すべきは、その後の人手の確保である。中間処理施設における作業が労働安全や衛生的観点から回避されるなら、自動化や機械化による対応に必要な設備投資も指導者の役割となる。すなわち、近未来の世界を見据える見識と、必要な設備投資を厭わない覚悟こそが、意志決定者に求められる責務なのだ。

8.官民連携DX推進の必要性

 当社が事務局を務め、有識者5名を中心に活動してきた廃棄物処理・リサイクルIoT導入促進協議会(URL: http://iot-recycle.com/)が行なってきた活動の一環として、昨年度は『「官民連携DX」が生み出す新たな価値』という提言書をとりまとめた。同提言書では、細分化された都道府県等の許可を有する業者としか契約出来ない制度要件があるにも関わらず、肝心の許可情報は役所窓口の紙媒体でしか確認出来ない、といった課題の整理を行なった。更に、コンプライアンスに関わる情報の電子化は本来行政の役割であり、いわゆる情報プラットフォーム整備を通じて誰もが閲覧・情報連携可能な体制を確立すべきであるとのメッセージを込めている。

「オープンデータ」に代表される行政データ開示も進展する中、「開示フォーマットの標準化」や「API接続に伴うプロトコールの摺り合せ」等を通じて、我が国独自の先進的なDX実現を目指すべきではないか。まずは関連各省庁が自らの情報管理・開示手法の改善を進めるとともに、地域社会を担う地方公共団体の関係者にも、DX推進の後押しを行なうことを望みたい。

 その上で民間側では自社事業のDX促進やそのために必要なソフト・ハード面の準備を積極的に図るべきである。今こそ、エッセンシャルワーカーとしての責任と自覚を胸に、知恵と覚悟を伴った経営判断と積極的な投資促進を進めることが、「ポストコロナ」の時代を生き抜くための必要条件となる。

林 孝昌

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