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IoTで進化する廃棄物処理・リサイクルビジネス

環境新聞 新春特集号 平成29年1月11日版

1.はじめに:IoT導入の必然性

 「日本再興戦略2016」において、第四次産業革命が成長戦略の柱に位置付けられるなど、IoT、ビックデータや人口知能等技術革新・導入への期待が高まっている。特に、同戦略で課題として掲げられた「人口減少に伴う供給制約や人手不足を克服する生産性革命」は、廃棄物処理・リサイクル業界にとっても他人事ではない。

現場作業員の属人的スキルやノウハウに依存する労働集約型産業としての廃棄物処理・リサイクルビジネス(以下、「リサイクルビジネス」という。)は、遠くない将来に終焉を迎える。人手不足の顕在化が避けられない中、リサイクル現場での作業を志す若者を確保しながら、従来通りの業務フローを継続することは実質的に不可能だからである。

一方、国民生活や事業活動を通じて廃棄物が国内で発生する限り、国内リサイクルビジネスへの社会的ニーズが消えることはない。製造業のように、人件費の安い海外に拠点を移転することは不可能であり、発生源に近い地域内で再資源化や適正処理を行うという本来ミッションが変化することはあり得ないためである。

だからこそ、業界を挙げた構造転換により、生産性革命に取り組まねばならない。その先に見据えるべき将来像には、デジタル化と機械化の徹底が不可欠である。リサイクルビジネスは、過去20年に亘るデジタル化の波にすら乗り遅れてきた。IoTに代表される革新的技術の導入促進は、時代背景と要請に正面から応えるための最重要課題の一つであり、生産性革命を達成する手段としての必然と言える。

2.廃棄物処理・IoT導入促進協議会の設立

 平成28年8月30日、有志の研究者5名が発起人となり、廃棄物処理・IoT導入促進協議会(以下、「協議会」という。URL:http://iot-recycle.com/)が設立された。協議会は、静脈産業へのIoT技術等先端技術導入をきっかけに、業界全体のあるべき将来像を描くこと、更には産官学関係者が互いに連携する枠組みを整備することによる新規事業案件創出を目的として設立された。先行してベンダー主導で活動中のIoT関連団体との最大の違いは、リサイクルビジネスというインダストリーをフィールドに、事業化に直結する案件創出のプラットフォームを目指している点にある。

 協議会の傘下には4つのワーキンググループ(以下、「WG」という。)が設置された。「低炭素化WG」「ロジスティクス高度化WG」「新規事業創出WG」及び「海外展開促進WG」である。いずれもリサイクルビジネスの持続的な発展に求められる課題をテーマに据えており、IoT導入をその原動力に据えることを目指している。

 一方、IoT導入の意義に対しては、業界内でも未だに懐疑的な声が多い。曰く、「儲かるビジネスモデルがわからない」「1社で実現できないがどこと組めば良いかわからない」「提案先顧客がないまま、ソリューション中心の話ばかりになる」などである。だからこそ、リサイクルビジネスが直面している実務的な課題をテーマに据えて、実証事業から社会実装までのシナリオを描ききることが、協議会におけるWGの役割となる。WGへの参加をきっかけとして、利益追求につながるビジネスモデルを具現化しつつ、業界の枠を超えたビジネスパートナーとの連携を図り、IoT導入メリットを享受する顧客の絞り込みを行うことが、全ての参加機関の目標となる。

 本稿執筆時点(平成28年12月17日)で、民間企業28件、自治体等8件、更には環境省、経済産業省、公益社団法人全国産業廃棄物連合会がオブザーバ参画することで、合計39機関からなる検討・事業化のプラットフォームが整備されるに至っている。

3.想定されるビジネスモデルの具体例

 リサイクルビジネスではどのようなIoTを導入方策が想定されるのか。協議会では、手触り感のある議論の土台となるビジネスモデルを示しつつ、WG毎の検討を進めており、その具体例の一部をご紹介させていただく。

 まず、低炭素化WGでは、既存ビジネスフローを前提とした収集運搬・中間処理分野での低炭素化に貢献するIoT導入促進案件の創成が議論されている。具体例としては、「IoT+モニタリング機器」の利活用による運転管理の最適化が挙げられる。(図表1)従来は工場長等の属人的なノウハウに依存してきたプラント運転管理について、IoTを活用してそのモニタリングプロセスを高度化・可視化することで、保守管理や発電効率化を実現することが期待される。

 次に、ロジスティクス高度化WGでは、IoT活用による物流時の不正防止・手間削減・データ高度利用等に資する方策の検討が行われている。(図表2)具体例として、ICタグ等の活用による伝票や報告書等のデジタル管理とペーパレス化が挙げられる。他産業では先行して普及済みのICタグを静脈物流に適用することで、マニフェスト管理と連動したデジタル化推進と業務効率化を実現出来ることは自明である。既に汎用化された技術の積極導入も立派なIoT活用方策であり、その実現に向けたハードルは相対的に低い。

 新規事業WGでは、先端テクノロジーの積極活用による、リサイクルビジネス高度化を目指している。具体例としては、破砕選別プラントの精度・歩留りの向上等が考えられる。(図表3)いわゆる都市鉱山開発を加速するための手法として、画像・映像データをAIで分析することにより、破砕・選別時の精度や歩留まり向上を図ることなどが考えられる。更には選別プロセスにもロボット技術を導入すれば、リサイクル工場における省人化・無人化を見据えた画期的なイノベーションが実現できる。

 最後に海外展開WGでは、「質の高いインフラ輸出」と先端テクノロジーのパッケージ展開を目標に据えている。具体例として、IoTモニタリングを活用したJCM(二国間クレジット制度)におけるMRVプロセス高度化等が考えられる。(図表4)リサイクルビジネスの海外展開事業によるJCMクレジット発行には、Measurement/Reporting/Verificationそれぞれのプロセス定型化が求められるが、その手順の明確化の承認を受けた上で、継続的なモニタリング等を行うことが、クレジット獲得を前提とした設備投資補助金獲得等の条件になる。各種センサーを統合するIoT技術の活用により、正確で確実なモニタリング管理の基盤となり得る。

 以上はあくまで業界内でのIoT導入方策の想定事例に過ぎない。極端に言えば、先進的なデジタル化技術とセンサーの組み合わせによるリサイクルビジネス高度化手法は無限にあり、従来はマニュアル処理が当たり前だと考えられていたプロセスの改善方策検討が、そのまま新たなビジネスモデル構築に直結するのである。運営委員会が主導する各WGには、そのためのインキュベーションセンターとしての機能を期待している。

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4.イノベーション促進に求められる決意

 ピータードラッカーは、企業の機能をマーケティングとイノベーションに尽きると定義した。筆者なりに解釈すれば、マーケティング(顧客が現在求めている製品やサービスの提供)に専念して目先の食い扶持を稼ぐだけでは、業界内の血塗れの競争に明け暮れてしまい、企業の永続は覚束ない。だからこそ新しいアイディアや切り口でイノベーション(潜在的に価値ある製品やサービスに転換するための新しいアイディアや発明)により、次のマーケットを見つけなければならない、という意味である。正にリサイクルビジネスの現状にぴしゃりと当てはまる至言と言えるのではないか。

 今後の国内人口減少及び労働力不足は不可避であり、発生抑制効果もあって廃棄物発生量は確実に減少する。これまで通りの事業活動を進めていれば、マーケットは確実に縮小することになり、事業規模と価格のみを競う消耗戦に陥ることは避けられない。こうした中、今後の成長鈍化を補うイノベーションの方向性は大きく二つに限定されており、一つは処分から再資源化への転換に伴う付加価値増幅、もう一つは個別事業者による生産性の向上である。

単純焼却や埋め立てからリサイクルへの転換は、過去20年以上にも亘って官民挙げて推進されてきた。結果、廃棄物発生量が継続的に減少する中でもリサイクルが生み出す付加価値は増幅されている。

一方、IoT導入は、一義的には競争力強化の手段であり、個社が競争と淘汰の時代を勝ち抜くためのツールとなる。また、IT業界の事例を引くまでもなく、デジタル化が進んだ世界の先行者利益はこれまでの世界とは比べものにならないほどに大きい。

 現行の収集運搬量や処分量を前提に将来計画を描くにしても、これまで通りの運営体制でビジネスモデルを前提とするのは非現実的である。イノベーション促進を通じて、就労者1名当たりの売上高拡大を前提とした生産性向上は持続性のある事業運営の前提条件でもある。

更に、個社イノベーションの積み重ねを総体的に見れば、業界全体の生産性を向上する可能性を秘めている。いわゆる3K職場の汚名を払拭して、就労先としての業界の魅力を高めることにもつながる。

その意味で、省人化や無人化を見据えたIoT導入等イノベーション促進は将来を見据えた投資であり、全てのリサイクラーにとっての使命との決意を持つべきである。今こそ関係者全体の意識転換が求められており、その成否が業界全体の浮沈を左右するかもしれないのである。

 

5.終わりに:協議会が果たす役割

どんな業界であれ、ビジネスモデルが明快で収益確保が確実な事業において、他社との協業を図る必然性は薄い。自ら投資をしてトップランナーとしての位置付けを確保することが、競争力強化の鉄則である。

しかしながら、IoTのように不確実性の高い領域で手探りの取り組みを行う際には、投資リスクを最小化する必要がある。具体的には、正確な経営判断に必要となる調査、技術開発、実証事業等に対する一定の補助金等を獲得しつつ、関係者連携によるトライ&エラーに挑むのが現実的と言える。

協議会の役割は、そのためのプラットフォームの役割を果たすことにある。リサイクルビジネスを牽引する39機関がそれぞれの目的意識を明確化しつつ、業務フローの高度化・省人化・無人化に挑む。その正念場が平成29年度からであり、更なる有志を募りながら、情報共有と企業間連携、FS調査や実証事業へと、先駆的な活動を加速していく予定である。

事務局を務める一般社団法人資源循環ネットワークは、業界の最前線でご活躍の有識者により構成される運営委員会の意向を踏まえつつ、個別会員機関の持つスキル、ノウハウ、フィールドを最大限引き出してゆく。次代の扉を切り開くビジネスモデルの社会実装を目指して、円滑な協議会運営を後押ししてゆく所存である。

以上

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